「森の中」
家の近くに古い寺がある。寺の裏には森があって石仏が点々とある。この森にスケッチブックを持って行って絵を描くようになった。夜の森を歩いて暗闇の色や星のひかりを感じる。獣のざわめきや虫の羽音に怯える。木の蜜や木の実の汁、泥で絵を描いてみる。
「村の歌」
祖母の拝む後ろ姿をいまでも覚えてる。
小さな桃の木の下に眠る白い鳥の瞳をいまでも感じる。
温い泥に塗れて空を見上げたとき山が笑っていたのをいまでも覚えてる。
熟れた果実と獣の匂い。
彼岸花の土手を駆ける少年。
涙のあとで小さな神様が許してくれた夜。
野原を泳ぐ赤い魚。
ガハラの冷たい夜の森。
暗い森の隙間に小さな星空が輝くのをいまでも感じる。
岩名泰岳 2010年7月